ラヴェル:バレエ音楽「ダフニスとクロエ」(1909-11)<第2組曲>
○ボールト指揮フィルハーモニア管弦楽団(BBC)1964/7/30 BBC LIVE意外だが、名演だ。最初に言っておくと、「全員の踊り」はリズムを彩る一音一音にキレが不足していて(というかもともとそういう指揮者であるから仕方ない)それゆえ少し評を下げさせていただいたのだが、何より、「夜明け」の恍惚、バルビローリとはまた違った太い筋を通したうえでの、それでも恍惚とした表情を伴うひたすらなテヌート表現、厚い音の滑らかな響きが大きくうねり流れて、その頂きでは悲痛なまでに愛を歌い上げる、この世界は、ラヴェルではない。ヴォーン・ウィリアムズであり、ホルストだ。「惑星」モノラル時代の名演を彷彿とする。私にとってこれは期待をしていなかっただけに実に嬉しい驚きをあたえてくれた。ドイツ的な重さを伴う独特の表現であり、フルートなど硬質な響きは突き放したような無機性も感じる。ラヴェルの本流を大切にする向きには薦められないが、知識より音楽を楽しむことを無上とする向きには是非一聴をお勧めする。尚音はこのじきにしては輪郭が不明瞭でやや聞きづらい。もっといい音であればボールトが配慮した細部に至る明確な造形性をも楽しむことができよう。終演後の壮絶なブラヴォーと拍手の渦は、ボールトの実演記録では希有の例ではないか。それだけの価値のある演奏なのだ。一緒に入っているシベリウス7番は凡演であった(こちらが目的だったのに)。ビーチャムにコリンス、サージェントにバルビローリといったそうそうたるシベリウス(交響曲)指揮者に対して、敢えて抗わず極力避けたボールトは懸命だった。繊細な音色のニュアンス作りはこの指揮者の専門外なのだから。もう一度言うが、それだけにこの名演は意外だったのだ。「交響曲的表現」と一言付け加えておこう。,
スポンサーサイト